小説を書いたり、酒を飲んだり、恋をしたり|岡部えつ


by etsu_okabe

こわいよ、たすけて

 今日、職場で。
 昼休み、近くの公園に煙草を吸いに行って戻ると、
「おかべさん、グロいの見ませんか」
 隣の男が、自分のパソコンのモニタを見ながらニヤニヤ嬉しそうに言う。他にいた2人も同じ笑顔を浮かべて、でもそっぽを向いている。
 嫌な予感がした。
「エロならいいけどグロは嫌いだから、絶対に見ないよ」
 ぴしりとそう答えると、3人から忍び笑いが漏れた。胸クソ悪い。

 案の定、それは先日イラクで殺された日本青年の、殺害ビデオのことだった。ネットで公開されていたのを見つけたのだという。

「いやー、出るだろうと思ったけど、こんな簡単に見つかるとはね」
「俺、さすがにヘコみましたよ」
「えー、全然平気で見てた自分て、なんなんすかね〜」
 へらへら、へらへら、下劣な笑い声が部屋中を巡る。そのうち、シーンの描写までしはじめた。彼らはその会話を楽しんでいる。オカベさんも一緒に楽しみましょうよと、誘いかけている。
 こめかみがジンジン痺れてきた。
「なんて品がないの」
 思わずそう言ったとき、わたしは鬼のような顔をしていたのだと思う。それきり全員、ぷっつり黙った。隣の男は「なんだよ、せっかく楽しんでたのに」とでも言いたげだった。

 この小さな部屋の中は、今の世の中の縮図なの?
 狂っているのはどっち?
 わたしの居場所ってここにあるの?
「こわいよ、たすけて」と胸の中で唱えているうち、昼休みが終わった。
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by etsu_okabe | 2004-11-04 23:13 | 日々のこと/エッセー