小説を書いたり、酒を飲んだり、恋をしたり|岡部えつ


by etsu_okabe

たった今から失恋しようと思う。

 とても大切な友人が、長くつきあっていた恋人とお別れした。
 ゆうべそれを聞かされて、なぜかショックで落ち込んでしまった。3日泣いて立ち直ったという本人がニコニコ報告してくれているのに、わたしの方がメソメソして慰められるという体たらくだ。

 友人は男性で歳も離れているし(彼の方がずーっと若い)生活のフィールドも違うので、わたしたちはしょっちゅう一緒に遊ぶような間柄ではない。出会ってから3年近く、数歩離れたところからわたしの方が一方的に勇気をもらい、そのお礼に微力を貸しているという関係だ。
 そんな決して濃厚とはいえないつきあいの中でも、たまに二人で話すとき、彼の口から出てくる彼女のことは、わたしの中に深い印象を残した。芯があって品性を持った、頭のいい、かわいい、彼にとって、唯一無二のかけがえのない人。
 のちに会った彼女は、抱いていたイメージ通りの魅力的な人だった。まだ若いのにちっとも無理がなく、背伸びや見栄もなく、自然で、しっかりと地に足の着いた、とてもチャーミングな人。決して派手な華やかさはないけれど、しんと鎮まった湖面のような美しさを持った人だった。そしてその湖底に、激しいマグマの流れのあることを感じさせる人でもあった。
 そういう女性を愛して、愛されている彼を、わたしはますます好きになった。

 ところで。そんな彼女を失った彼の喪失感に感化されて、または彼に同情して、わたしはこんなにも落ち込んでいるのだろうか。
 今日一日、そのことばかり考えて過ごした。
 これまでだって、友達の失恋になど何度も何度も立ち会ってきた。しかし、そのせいで自分がしょげたり落ち込んだりしたことなど、一度もない。
 一体これは何なのだろうか、と。

 仕事からの帰り道、ナゾは解けた。

 わたしも去年、7年つきあった人と別れた。迷ってばかりのわたしに「わたしらしさを知ること」を教えてくれた、本当にかけがえのない人だった。
 色んなことがあって、喧嘩したわけでも憎み合ったわけでもなく、わたしたちは「そうなることが自然だった」としかいいようのない別れ方をした。

 だからわたしは、この大きな大きな失恋で、まだ、一度も泣いていない。

 悲しさや寂しさを沸き起こさせるような激しい別離ではなかったし、どちらかというと「この人とやるべきことはもう全てやりつくした!」という<燃え尽き感>が強くて、わたしはこの一年、彼とのことなど全く振り返らなかった。
 かといって、未来を見つめて驀進していたわけでもない。そんなフリはしていたが、実はただ気の抜けた日々を過ごしていただけだ。
 それが、大好きだったカップルの別れを知って、「かけがえのない人を失う」ということを考えさせられて、ここにきて初めて、わたしはわたし自身の喪失感に、やっと気がついたのだ。
 なんというか、おっちょこちょいにもほどがある。呆れてしまう。ほんと、大バカ者だ。

 辛いけれど、わたしはこれからしばらく、別れた彼との7年間を見つめ直して、きちんと悲しんで、惜しんで、悔いて、寂しがって、そしてちゃんと立ち直ってみようと思う。
 それで何が変わるものでもないだろうが、こうすることで、わたしの中でひとつの恋愛がきっちり終わるような気がする。
 そしてそうしなければ、ハッピーな「次」がやってこないような気もするのだ(まだまだする気です。ふっふっふ)。
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by etsu_okabe | 2004-12-01 21:59 | 日々のこと/エッセー