小説を書いたり、酒を飲んだり、恋をしたり|岡部えつ


by etsu_okabe

岡本敬三先生が亡くなった

 作家であり編集者でもあった岡本敬三さんが亡くなったとの知らせを、昨晩受けた。
 岡本さんは、わたしの小説の先生だった方だ。安原顕さん亡きあと誰にも師事する気になれず、一人でちまちまと書いていたわたしが、まるで上達の見込めぬ状況に不安を感じ始めたとき、紹介してくださる方があって、岡本教室に入った。
 安原さんの罵倒型指南に慣れていたわたしにとって、岡本先生の優しい褒め型指南は、最初とても物足りなく感じたものだった。わたしは小説がうまくなりたいのだから、いいとこを褒めてもらってもしかたがない。悪いところをバンバン叩いてしごいて欲しい。そう思っていたのだ。
 ところが、何度目かの講評のとき、よーくよーく聞いていたら、しっかりとダメ出しをしてくださっていることに気がついた。なにがどうダメなのか、それを懇切丁寧に例を出したりうまく書けているとことろを引き合いに出して話されるので、自意識の強いわたしのような人間は、つい耳に気持ちのいい言葉だけを拾ってしまっていたのだろう。岡本先生は、優しい口調でしっかり、厳しい指摘もしてくださっていた。
 それに気づいてから、わたしはもうただひたすら、小さな子供のように、岡本先生の言われることを丸呑みし、岡本先生が「よし」と言うものを目指して書いた。講評の時には、耳に痛い指摘をひとつも漏らすまいと耳を澄ませた。
 そうこうしているうち、「どこかいいのか」「どこがダメなのか」を、自分なりに掴むことができた。そしてとうとうある作品の講評で「特に言うことはない」と言っていただけた。
 その言葉を聞いて、わたしは数年振りに、小説懸賞に応募してみようという気持ちになった。そして『幽怪談文学賞』に応募し、大賞を受賞してデビューすることができた。岡本先生がいなければ、わたしにそんな力はつかなかったろう。
 次に出す本も、読んでいただかきたかった。
 ご冥福を、お祈りいたします。
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by etsu_okabe | 2013-06-06 20:19 | 日々のこと/エッセー