小説を書いたり、酒を飲んだり、恋をしたり|岡部えつ


by etsu_okabe

必死じゃなかった

a0013420_1155962.jpg 久方振りに『朝までスラムダンク一気読み』をした。文字通り<精魂尽き果てるまで>頑張ったとき、ご褒美として行うわたしの定例行事である。
 一度読み始めるとどうにも止まらないのでこんなルールを定めたのだが、ここ数年はそこまで頑張ることがなく、しばらく読んでいなかった。
 寝不足続きで朦朧としているくせに達成感でハイ状態、そんなヘロヘロ頭を空っぽににして、テーブルに積み上げる全31巻。何度読んでも笑わされ、泣かされる名作漫画だ。

 わたしの高校生活は、バンドに明け暮れる毎日だった。と書くと熱い青春ぽいが、今聴いたら顔から血が出る(byハルコ)ほど恥ずかしい下手くそなママゴトバンドだったし、具体的に何かを目指していたわけでもなく、ただ気分に酔って遊んでいただけの中途半端な活動だった。女の子バンドだったので団結力もゼロ。卒業と同時にバラバラになった。
 卒業して間もないある日、いつものように元バンド仲間だった友人と朝まで呑んだくれて帰ると、幼馴染みから電話が入った。
「これから後輩の練習試合があるから、一緒に見にいかないか」
 彼は前年まで、サッカー部の主将だった。三年間の全てをサッカーに費やしたと言っていい。一年の頃は全く無名校だったのが、最後の年にはとうとうインターハイまで行ってしまった(その年からその高校は強豪になった)。夜中に家から抜け出して酒場をほっつき歩いていたようなわたしとは、真逆の高校生活を送っていたのだ。
 青空の広がる春のグラウンドに、友人と車で乗りつけた。2人とも昨夜の酒がまだ残ってフラフラしている。洋服はタバコ臭い。
「おーい」
 幼馴染みが、グラウンドを見下ろす土手の草むらから手を振った。
 三人並んで腰を下ろし、汗だくで走り回る高校生たちを眺めた。ハーフタイムでは、彼らをインターハイ・クラスまで育てた鬼監督の鉄拳が飛ぶ場面もあった。ぎらぎらした選手たちの目に吸い込まれる。
 あれこれ解説をしながら熱くなっている幼馴染みの隣で、わたしは何とも言えない虚しい気持ちになっていた。
「ねえ、あたしたち、三年間何やってたんだろね」
 友人がぽつりと呟いた。彼女も同じ気持ちだったのだろう。
 もちろん、わたしたちだってそれなりにやりたいことに向かっていたとは思う。しかし、ほんの一、二歳若いだけの高校生たちがぶつけてくるパワーの前では、自分たちの高校生活があまりにも刹那的な、快楽主義的な、どう説明しても言い訳になってしまうような、薄っぺらいモノに思えてきてしまうのだ。
「あそこまで必死じゃなかった」
 それは、取り返しのつかないことのように思えた。

 今回の『朝までスラムダンク』でぐっと来たのは、陵南高校のキャプテン魚住が、引退とともにバスケを辞め、家業の板前修業の道に進むと告白する場面だった。
 血を吐くような努力をして県下でトップと言われるほどの選手になったとしても、その上のレベルに行ける者とそうでない者がいる。当たり前のことだが、大切な三年間の全てをわずか18歳ですっぱり切り捨てる決心をしなければならない者の方が、そうでない者より多いのだ。
 わたしがぐっときたのは、その「切り捨て」を、魚住がさらりと爽やかにしてしまうところだ。迷う場面がない。作者はきっと、迷わせたくなどなかったのだろう。これだけのことをやった者は、迷ったりしない。
 そんなことを考えていたら、くらくらしてきてしまった。

 中途半端にやってきたことほど、あきらめがつかない。
 わたしは、それほど必死にやってこなかったんじゃないか。

 小鳥のさえずりと共に最終巻をパタンと閉じ、18の頃からちっとも成長していない己にボーゼンとなりながら、眠りについた(そのまま16時間ぶっ通しで寝た。つくづく情けない)。
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by etsu_okabe | 2005-07-04 01:16 | 日々のこと/エッセー