小説を書いたり、酒を飲んだり、恋をしたり|岡部えつ


by etsu_okabe

じゅわっと幸せ・アジアパンの玉子パン

 a0013420_20191620.jpg以前にも書いたが、わたしの故郷の匂いはパン屋さんの匂いだ。父方の祖父の家が製パン業を営んでいて、父も母もそこで働いていた。盆や正月に親戚が集まれば、不思議な機械がたくさん置いてある広い工場が、子供たちの遊び場だった。
 小学6年生まで、わたしは毎週この店に通っていた。習っていたピアノ教室が近所だったので、土曜日のレッスンのあと店の二階にある部屋で、両親の仕事が終わるのを待っていたのだ。小さい頃にはよく遊んでくれた従姉も、中学に上がると部活や友達との用事で出かけている日が増え、妹と2人きりで待つことも多かった。
 テレビをつけっぱなしにして従姉の『ブラックジャック』や『エースをねらえ』を読みふけっていると、三角巾を被った伯母が玉子パンを持って上がってくる。ファンタオレンジと一緒に頬張る玉子パンは、子供だけで過ごすちょっぴり心細い週末の夕方に、じゅわっと沁みる幸せの味だった。

 そんなわけで、わたしがこの店で一番好きな「玉子パン」。懐かしい甘みのする皮(皮っていうのかな?)が、素朴なパン生地の上にしっとりと乗った菓子パンだ。
 今は生クリームをサンドしたりと色々アレンジしたものも売っているらしいが、わたしは断然バター。もともとバターがたっぷりきいているところに、さらにバター。これがたまらなくおいしい。
 最近この店がネット販売を始めたというので早速注文をすると、すぐに返信メールがきた。あの頃一緒に工場で遊んだ従姉からだ。初めてのネット販売にまだ不慣れで、色々大変そうだが頑張って欲しい。わたしにとってじゅわっと幸せの味がするパンなんて、この玉子パンしかないのだから。
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by etsu_okabe | 2005-11-13 20:20 | 日々のこと/エッセー