小説を書いたり、酒を飲んだり、恋をしたり|岡部えつ


by etsu_okabe

謝り殺し

「僕が悪かったと思います。申し訳ございません。許してください」

 そう言われて絶句した。
 同僚の仕事に問題点を発見し、それを指摘したときのことだ。
 問題点とは、例えて言えば獣医師を目指しながら<犬猫が大嫌い>というような、仕事上致命的な問題だったので、そのことについて本人に問い質したのだった。

「僕が悪かったと思います。申し訳ございません。許してください」

 わたしは「お前が悪い」と言って責めているのではなかった。いい悪いの問題ではない。犬猫よりも草花をいじる方が好きだというのなら目指すべき方向が違うのではないか、それについて考えていることはあるか、問いかけをしたまでなのだ。

「僕が悪かったと思います。申し訳ございません。許してください」

 謝られれば謝られるほど、自分が極悪人になったようなイヤな気分になった。意図を懸命に説明するが、それに対しても相手はぺこぺこ謝るばかり。「そういうことじゃないんだ」といくら言っても、すり抜けてしまう。言ってみればそれは『ホメ殺し』ならぬ『謝り殺し』だった。
 途中で「僕を見捨てないでください」という不気味な言葉を聞き、そこでやっと<彼はわたしの話など全く聞いていない>ということに気がついた。わたしたちは、数十分間も言葉を交わし合いながら、会話をしていなかったのだ。

 なんとも薄ら寒い時間だった。
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by etsu_okabe | 2006-01-22 01:50 | 日々のこと/エッセー