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小説を書いたり、酒を飲んだり、恋をしたり|岡部えつ


by etsu_okabe

『少女椿』---誰もが持つブラックホール

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 丸尾末広原作のアニメーション『地下幻灯劇画・少女椿』を見た。その筋の人からすれば「今さら」かも知れない。様々ないわくつきの作品である。

 薄暗い路地裏で、椿の花売りをする少女みどり。ある晩、山高帽の男が現れ花を全部買ってくれる。「お母さん。これで遠足に行けるかもしれない」喜びに胸を弾ませて帰った家で、病の母は鼠に食われて死んでいた。
 行くあてのないみどりが頼った山高帽の男は、実は見せ物小屋の親方だった。汚れきったフリークスたちに身も心も穢されながら、みどりは絶望の中で生きていく。裸に剥かれて折檻を受けながら、呟く言葉は「遠足、行きたい......」。
 そんなある日、親方が新しく雇った侏儒(こびと)の西洋奇術師が、見せ物小屋にやってくる。自分に好意を寄せ優しく接してくれる奇術師に、みどりは身も心も許す。不幸のどん底を舐めるように生きてきたみどりにも、果たしてやっと幸福の時が来たのか......。続きはご自身の目で。

 わたしがこの作品に共感を覚えるのは、ごく平凡だったはずの幼少時の記憶が、みどりの心のブラックホールとリンクするからだ。
 春休みには動物園、夏休みには海、冬休みにはスキー。仲のいい家族に囲まれ、愛され、何の苦労もなく育ったはずのわたしだが、当時の記憶を再生すると、その映像はどれも薄暗い。笑いの絶えない明るい家だったはずなのに、思い出すリビングはいつもうすら寒い。
 おそらく、常に漠然とした不安感に包まれていたからだろう。それは、親に捨てられやしないかという不安や、自分がここから引き剥がされるのではないかという不安、そして家族の強固さを疑う不安など、いずれも、自分と家族との繋がりに対するものだったように思う。
 この不安は特別なモノではなく、子供時分に誰もが持つ、心のブラックホールではないだろうか。そこに吸い込まれてしまわぬよう、親に必死にすがって子供は生き延びる。たとえ、虐待されようとも。
『少女椿』のみどりは、物語の最初から父親に出奔され、母親には死なれてしまう。そして、本能的に頼った相手、見せ物小屋の親方が仮の親となる。仮ではあっても親だから、そこでどんな仕打ちを受けようと、みどりは決して逃げない。
 そこに現れたのが、侏儒の奇術師だ。こいつだって十分うさん臭い。しかし、子供はいつか外からの迎えを得て、家から飛び立つ。その時初めて、あの心のブラックホールから逃れることができるのだ。
 そう考えると、この少女椿・みどりの物語のテーマは、ある意味とても普遍的だ。わたしはそこに深く共感し、感動している。それはわたしが普通の、凡庸な人間だからだ。
 それなのに、なぜこの作品はあらゆる方面から規制を受けたりキワモノ扱いされたりするのか。
 それは、舞台が見せ物小屋であり、キャラクターがフリークスであり、表現がエロ・グロ・暴力だから。------いや待て、同じフリークスや暴力でも、ハリウッドのスポットライトが当たっていれば許されるのよね、ね!?

 なぜ、多くの人は「汚いモノ」「ネガティブなもの」を<悪>とするのだろう。
 汚い心は、生き抜くために必要不可欠なモノだし、ネガティブは悪ではなく、死なないための武器。誰もが持っているはずだ。それなのに、なぜみんな「あたしは四方八方からライトを浴びて影なんて持ってません」という顔をして、闇を忌み嫌うのだろう。

『地下幻灯劇画・少女椿』は、闇を愛せる人にはたまらないカタルシスとなる作品だ。しかし、今のところ簡単に手に入れて見ることのできる作品ではないらしい。どこかのサイトでCD-Rに焼いたものを販売しているようなのも見たが、正規のルートかどうか分からないので、リンクは貼らないでおく。
 ちなみにわたしは、闇を愛する友人から流してもらった。感謝。

  *     *     *
 北朝鮮から日本にやって来た(“帰国”とは言わないと思う。彼らにとって日本はまだ“故郷”じゃないんだから)拉致被害者の子供たちの様子を知ろうとするマスコミが、やたらと「夜中でもネオン輝く東京を見て、何と言ってました?」「日本は首相と同じジュースを飲んでもいいし首相を批判してもいい国だと聞いて、どういう反応でしたか?」などと質問するのに、ゲンナリしている。明らかに決まった答えを期待しているのが見えるから。
「日本の豊かさに驚いた! そんな自由が許されるなんてスゲエ!」
 日本が北朝鮮より豊かなのはただのラッキーで、その陰で搾取され泣いている国があるんだし、日本の自由なんて『少女椿』も自由に見れやしない程度のもんじゃないか。そんなモノに優越感なんて......うぇ〜っ。
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a0013420_10193260.jpg◆『枯骨の恋』岡部えつ著 2009年6月発売
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情念とエロスの絡み合う果てにある、恐怖を描きました。一度でも、殺してやりたいほど恋人を愛したことのある大人なら、きっと楽しんでいただけると思います。(常習女|岡部えつ)
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by etsu_okabe | 2004-05-25 04:29 | 映画/芝居のこと