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小説家です|岡部えつ


by etsu_okabe

言葉と責任

 わたしがどうしても許せないことのひとつに、「言葉をないがしろにする」というのがある。
 このブログで、コメントを下さった方とモメてしまったことが何度かあるが、いずれもその発言の無責任さが許せなくて、ついそれを指摘してしまったことが発端となり発生したトラブルばかりだ。
 言えば無意味な言い訳を攻撃の形で突きつけられたり、突拍子もない嫌がらせを受けたりする可能性があることは重々承知の上で、それでも許せない気持ちが勝ってひと言言ってしまう。

 ごく最近、こんなことがあった。

 とあるネット上のコミュニティで、「この病院だけは行っちゃいけない」という発言があった。するとそのあと、続々とその病院の悪評が書き込まれた。「実際に自分が誤診を受けた」というリアルなものから、「知人がヒドイ目にあった」という伝聞形式のものまで様々だが、一万人を越える人が集まるコミュニティにおいて、その病院は「ヤブ医者」というドでかいレッテルを貼られてしまった。
 しかし、本当に信じられる書き込みは実際いくつあるのか。
 決して暇ではないのだが、ざっくり統計をとってみた。

●自分が実際になんらかの被害を被ったという書き込み------6件
●家族や知人が被害を被ったという書き込み------7件
●ヤブだという噂話の書き込み(伝聞含む)------18件
●その病院にかかったが何も問題がなかったという書き込み------7件
●このコミュを見て行くのをやめたという書き込み------2件

 40件の書き込み(2種類の内容を含む書き込みは重複カウント)中、なんと、実際に被害にあったと書いたものはたった6件で、何も問題がなかったという書き込み7件より少ない。
 家族や知人の被害を書いたものは真実味はありそうだが、実は「それ本当にその病院のことだって言えるの?」という疑問が残る。
 最も多い18件を数えたのは、ただの噂話を書いたものだった。
「あそこは昔から評判悪い」
「救急車に乗った人が「そこだけには運ばないで」と叫ぶらしい」
「こんなヒドイ目にあった人がいたそうだ」
 といった、何の根拠もない無責任な悪評ばかり。しかし無責任なだけに、その書き込みは揃いも揃って恐ろしく、大変面白い。その面白さに引っ張られ、こき下ろしはヒートアップする。

 わたしは実際その病院にかかったことがない。かかったことがあるという友人知人も一人もいない。それなのに、その病院はわたしの中で完全にマッド・ホスピタルになってしまった。
 先週お腹を壊したとき、徒歩1分で行けて24時間オープンの救急病院であるその病院へ、わたしは行くことができなかった。そして、深夜から朝まで胃痙攣と嘔吐で6時間ものたうちまわるというバカを演じた。そのコミュニティサイトに集まる多くの人と一緒に「ただの噂話」を本当の話と混同し、「あそこはヤブ!」とジャッジしたのだ。

 複数の病院を選べるとき、評判や噂を考慮してその病院を除外することは間違っていない。しかし、死ぬほど苦しい思いをしているとき、その病院しか開いていないとき、そこが自力で歩いて行ける場所にあるとき、それでもその根拠のない噂を信じてそこに行かないなどというのは、愚の骨頂としか言いようがない。わたしはとんでもないアホだ。

 無責任な言葉は、こうして人に正しいとは言えない判断を下させてしまうことがある。
 もしわたしが、翌日違う病院へ行って何事もなく家に帰って来たあと、このコミュニティサイトに「いやぁ、このコミュを読んでなければ危うくあのヤブ医者に行っちゃうところでした。お陰で別の病院に行って無事治療してもらいました!」などという恥ずかしい書き込みをしていたら、その無責任な言葉によって、さらに何人かの人がわたしと同じ間違いを犯したことだろう。

 世の中に溢れかえる様々な情報を取り入れるとき、わたしという濾紙を通して何をドリップするのか、そこにはわたしの責任がある。
 ただのアマチュアブロガーだけれど、そこだけは、絶対に絶対に守りたい。
by etsu_okabe | 2006-04-03 01:48 | 日々のこと/エッセー