小説を書いたり、酒を飲んだり、恋をしたり|岡部えつ


by etsu_okabe

この世で最もセクシーな職業

 小さい頃から“鳴り物”に滅法弱かった。
 街でチンドン屋に出会えばどこまでもついて行ってしまうし、義足の傷痍軍人が奏でるアコーディオンには必ず立ち止まり(子供だから施しはしない)、母親から「見るんじゃありません」などと叱られたものだ。
 当然のことながら、色気づく頃になるとアイドルはミュージシャンになった。ギター、ドラム、サックス、ピアノ。どんな楽器でも、演奏するその姿に惚れ惚れしてしまう。
 色んなミュージシャンのコンサートに通いつめながら、いつしかわたしは気がつくと、演奏家の手だけを見るようになっていた。
 ギタリストの流れるような指の動き、ドラマーのバネのようにしなる手首、そして最も好きな、ベーシストが後ろを向いた時に見えるネックに添えられた親指(一種のフェティシズム?)......想像しただけで、トロンとなってしまう。
 音楽は、人に「恍惚」を与えるものだ。脳みその何かを刺激して、“気分”のところに影響を及ぼす。セックス・ドラッグ・ロックンロールと言うが、セックス・ドラッグ・ミュージック、が正しいと思う(わたしはクラシックだってぶっ飛べる)。だから、その恍惚を生み出す「手」にセクシャリティを感じることは、ちっとも不思議なことじゃない。
 以前小説の習作に、主人公の女がミュージシャンに「するり」と身体を割られてセックスに及ぶシーンを書いて、師匠ヤスケンにえらく褒められたことがある。
「ミュージシャンていうのは本当にこんな風に神業的にヤるんだよな! お前よく知ってんな! エライ(←師匠の口癖)! ウマい!!」
 もちろん全てのミュージシャンがそうだと言うつもりはないが、魔法のように音を紡ぎ出すあの手に抱きすくめられ、びっくりしている間にもうパンツを脱がされてた、なんていうのは容易に想像できるではないか(小説ですので、あくまでも!)。
 山男の次に惚れてはいけないのがミュージシャンだと思う。
 山男は山に持って行かれてしまう(遭難)から惚れてはいけないわけだが、ミュージシャンの場合は、女の側が演奏家という“人間”よりもミュージックに持って行かれてしまうから惚れてはいけない。ハーメルンの笛吹き同様、音にやられて人が見えなくなってしまう。だったらと耳を塞いでも、あのセクシーな手が見える。ならばと目を瞑れば、その瞬間にチュッとされちゃうじゃん(女子高生かわたしは...)!!
 というわけで、音楽家というのはこの世で一番セクシーな職業だと、わたしは思っているのです。
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by etsu_okabe | 2006-05-14 03:07 | 日々のこと/エッセー