小説を書いたり、酒を飲んだり、恋をしたり|岡部えつ


by etsu_okabe

返事を書く

 久し振りに手紙を書いた。
 枯らしたまま一年ほどほったらかしていた万年筆に青色のインクをちゅちゅうっと吸わせ、座卓に正座する。パソコン用の椅子&机もあるが、手紙だと思ったらきちんと座りたくなった。

 かつて文通していた友人たちに、わたしの文字は評判が良かった。決して達筆ではなく、どちらかと言えば下手くそな方だが、漢字と平仮名の大きさのバランスに面白い癖があり、それに味があるというのだ。
 二十代でワープロを手に入れるまで、当然のことだが、書き物は手でしていた。その頃始めた小説の執筆も、もちろん原稿用紙と鉛筆だった。今でも少し名残はあるが、あの頃右手の中指には大きなペンだこができていた。
 生まれて初めて100枚の作品を書いたときも、手書きだった。それは、高校の現国の卒業課題。「何でもいいから原稿用紙100枚書く」というものだった。
 一応受験生だったが、わたしは受験勉強などまったくせずに、この100枚に夢中になった。書いたのは、小説ではなくエッセイだ。ほとんどRCサクセションのことだったと思う。彼らの歌がいかにいいか、清志郎の何が素晴らしいか、チャボのどこがかっこいいか、そんなことばかりをだだ~っと、100枚書いてしまったのだ。
 パソコンを使って書いている今でも、100枚書くとなると難儀する。書くという行為は大変な体力と気力を使うものだ。18歳の若さが凄かったのか、そこまで書かせた清志郎が凄かったのか分からないが、とにかくわたしは100枚書いた。そしてそれは、結局提出しなかった。書いてしまったら、そのことだけに満足して先生に出すことなどどうでも良くなってしまったのだ。
 あれはもったいなかったなあと思う。我ながら、なかなか良く書けた「熱い青春ラブレター100枚」だった。RCなんて知らない先生でも、読めばその熱気を楽しめてもらえただろう。

○○さん、お手紙ありがとうございました。
 一行書いて仰天する。あまりにも下手くそなのだ。ひどすぎる。書いていないと漢字を忘れるというのは常日頃実感していたが、これほど下手くそになるとは思っていなかった。
 書き直しても上手になっている自信がみじんもないので、そのまま書き続ける。せめて宛名書きだけでも、と思えば思うほど、変なところに力が入って妙な文字が躍る。

 字がとても綺麗だった、というだけで、好きになった男の子がいたことを思い出した。あれも高校の頃だ。
 最近、人の文字を見なくなった。
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by etsu_okabe | 2006-10-09 00:22 | 日々のこと/エッセー