小説を書いたり、酒を飲んだり、恋をしたり|岡部えつ


by etsu_okabe

44

 今日わたしは44歳になって、43歳で死んだ父の歳を越えた。

 親に若くして死なれた人がよく同じようなことを言うが、わたしもまた今日まで、自分が父の歳を越えられるとは思っていなかった。もう一方の親である母が、八百比丘尼のごとく衰え知らずに生きているというのに、なぜかそっちは無視して、自分は44歳以上は生きられないと、かたくなにそう信じていた。
 一昨年、ちょっと色っぽいことがあったとき、うまくいきそうもなかったその相手に「わたしが44歳になる日まで、一緒にいて欲しい」などと泣きごとを言ったのも、死ぬとき恋人もいなかったのでは、あまりに自分がかわいそうだと思ったからだ。相手の方にはずいぶん失礼なことだったと思う。

 ばかばかしいと思うかもしれないが、16歳のときから28年間、あと何年、と指を折っていたのだから、それを越えてしまったというのは、実は大きな事件だ。

 つまり今日は、わたしにとって<再生>の誕生日。

 そんな重大な晩、何をしているかというと、一人自室でパソコンに向かっている。ケーキひとつあるわけでもないが、受賞祝いにいただいた日本酒2本と米焼酎1本があるので、あとでひっそりと乾杯でもしようかと思う。
 父のやり残しをわたしが生きることはできないが、自分のやり残しはつぶせる時間ができた。昨日死ぬはずだったと思えば、どんなことでもできる気がする。なりふり構わずやっちゃおう。真っ裸の赤ん坊に戻って、本当のわたしを生きよう!
 よしっ、とりあえず乾杯だ♪(それじゃあこれまでと同じだよ……)

    * * *

 父は43歳で死んだが、母は42歳で未亡人になった。そのことを思うと、これまた感慨深いものがある。
 母はそこそこ美しい人だと思うが、父の死後いっさい男っ気なく、独り身をつらぬいて来週、70歳になる。
 そんな歳になっても、酔っ払って転んでたんこぶ作るような四十娘を抱え、さぞかし世間には肩身が狭かろう。わたしが幽怪談文学賞で最終に残ったと知ったときには、父の墓前に「どうか受からせてあげてください」と祈ったそうだ。今はその掲載誌「幽」を、仏壇に供えているという。なんか、のりうつっちゃいそうな気がするが、それほど喜んでくれているとは、素直に嬉しい。
 親孝行、したのかな?
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by etsu_okabe | 2008-12-21 01:28 | 日々のこと/エッセー