小説を書いたり、酒を飲んだり、恋をしたり|岡部えつ


by etsu_okabe

祭り囃子とジェニー/エフゲニー・キーシン ピアノリサイタルに行く

a0013420_1437544.jpg 今年に入ってから、これまでに使ったことのない神経やらすっかり甘えさせていた筋肉やらを一気に使ったせいで、わたしのあちこちがおそらくオーバーヒートしていたんだと思う。先週土曜日から4日間、ひどい下痢を起こしてダウンしてしまった。
 ただそれだけなら寝込みましたで済むことなのだが、これがもう、わたしにとってとても大事な一日にぶつかったのだからたまらない。
 それは4月26日(日)、エフゲニー・キーシン ピアノリサイタル@サントリーホール。

 あれは昨年末のこと。
 幽・怪談文学賞の受賞の喜びもつかの間、翌年に出してくださるという単行本のために、あと数百枚分の怪談を、たった三か月弱で書かねばならないという重圧におしつぶされそうになりながら、毎日机にかじりついていた日々のことである。
 わたしの机には、iMacG5とノートPCが載っている。小説の執筆もWEBの仕事もノートPCを使い、iMacは音楽を流したりニュースを見たり、休憩に動画サイトを見たりするのに使っている。
 その日もなんとなくYouTubeを見ているうちに、ユンディ・リが弾くリストの「ラ・カンパネラ」に行き当たり、あらためてそのメロディの美しさとテクニックの素晴らしさに感動して、この曲のいろんなピアニストの演奏を浴びるように聴いてみたくなった。
 早速YouTube内を「la Campanella」で検索し、引っかかった動画をがしがし再生リストにぶちこんで集めた20曲ほどを、連続して何時間も聞き続けるということをしていたのだが、その中で、なぜかある一人の演奏家のときだけ、仕事の手を止めて動画に見入ってしまう。
 それが、ロシアが生んだ天才ピアニスト、エフゲニー・キーシンだった。
「ミュージシャンは顔も命」のわたしにとって、彼の容姿は百点満点。しかしもちろんそれだけじゃない。わたしの手を止めさせたのは、その演奏だ。むちゃくちゃ繊細なのに情熱的! 奥の方でちろちろ燃えていた火が次第に空気を孕んで広がり、しまいに一気大炎上~という、おいしいご飯を炊くのにも似たこの技巧(音楽について語る語彙を持たないのですみません)。
 次の瞬間、わたしは「Evgeny Kissin」という再生リストを作った。そこには50本近くの動画がぶちこまれている。もちろんCDも買い集めた。リスト、ショパン、プロコフィエフ、ベートーベン・・・・・・何を弾いても、燃える。どんな曲も燃やし尽くします、この男の子は。
 で、煮詰まってはキーシン君に逃げる日々を送る中で、ふと彼の公式サイトを見てみれば、日本公演が組まれているではないかー! それも4月! ああもうその頃のわたしは、あれやこれやが終わってすっきり晴れ晴れのはず! そうだ、これを励みに頑張ろう!!!!
 eプラスで調べてみれば、すでに残席僅か。ぎりぎりのところでゲットしたチケットだった。ここが取れなきゃ大阪でも名古屋でも行くつもりだった。

 その、そのピアノリサイタルの前日、家から一歩たりとも出られないほどの激しいお祭りが、わたしのお腹の中で突然開催されてしまったのだ。
 日曜日になっても、お祭りは大盛況だった。とても無理だ。でもしかし。このために頑張ったのに。キーシン君、いやジェニー(勝手につけたニックネーム)の演奏姿をひと目見たい~~~。
 意を決し、わたしはシャワーを浴びて家を出た。祭りはまだまだ佳境。駅のたびにトイレへダッシュ。サントリーホールに着いても、まずはトイレ! ロビーでワインやシャンパンを楽しんでる人たちを恨めしく眺めながら入ると、鏡に幽霊のような真っ白い女が・・・・・・・わたしだった。
 しかし、さすがジェニー。前半は脂汗だらだらだったわたしを、後半はすっかり演奏に集中させてくれた。大満足! そしてこれでもかというアンコール。嬉しいやら辛いやらの苦笑いの拍手をしながら、あれ、背中がぞくぞくしてないか? ま、まさか、ね??
 そのまさかが当たり、その晩わたしはみごと発熱。翌日、翌々日と仕事を休み、各方面に大変ご迷惑をおかけしました、すみません!

 今日はもう熱もおさまり、お祭りも無事終了した模様。祭りのあとの、わびしさってとこ(うそ)。

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by etsu_okabe | 2009-04-29 14:59 | 音・詩のこと