小説を書いたり、酒を飲んだり、恋をしたり|岡部えつ


by etsu_okabe

落款印届く

 亡父は本を読むのが好きだったが、それ以上に買うことが好きだった。それも、なんとか全集といったものを一度に全巻どかんと買うので、読むほうが追いつかない。父が死んだとき、ぎっしり詰まった書棚を見て「パパはこの中のどこまで読んだんだろうね」と、家族でため息したものだ。
 母は読書家ではないし、妹にもわたしにも読むものには趣味がある。とにかく本は重いしかさばるので、一生読みそうにないものは、古本屋さんに売ろうということになった。
 しかし、それは断念させられることになる。父は買った本全てに、ハンコを押しまくっていたのだ。
 蔵書印と言えば聞こえがいいが、父が押していたのは氏名住所電話番号まで全部入った、郵便物用に作ったゴム印だった。こんな個人情報をくっつけた本、売りに出せるはずがない。
 なぜ、なぜなんだ。どうしてそんなことをするんだ。残された女ばかりの家族の誰一人、父のこの行為の意味が分からなかった。
 もう少し大人になって、押入れから出てきた父のもっと古い蔵書に、それをくれたのであろう伯父たちのサインをみたとき、なるほど、これはマーキングなのだなと思った。「所有」を誇示したい、男の性(さが)。

 女の子も持ちものにサインをするが、これは所有の誇示とは違う。サインそのもののデザインを楽しむ、ひとつのおしゃれなのだ。だからそこにハートや星のマークをつけて飾り立てたり、時代に沿った崩し文字(わたしたちの頃は<丸文字>や<変体少女文字>など)で遊んで書く。決して、マーキングではない。

a0013420_3523832.jpg こんなことを思い出したのは、今日、注文していた落款印が届いたから。

 せっかく本ができたので、何か記念になるものを作りたかった。
 お金がかからなくて、本と関係あって、記念になるもの・・・・・・と考えていたら、これになった。
 彫ってもらったのは「えつ」の文字。ラブリー♪
 わたしはこれで「所有」を示したいのではなく、あくまでもそのキュートさを楽しんでいる。

 作ってくれrたのは、篆刻作家の雨人(うじん)さん。ネット上で探していて、偶然見つけたのだが、誠実な感じが伝わってきたので即決で注文した。
 案の定、とても素敵な対応をしてくださり、望み通りの品物が届いた。ありがとうございました!

⇒雨人さんのホームページはこちら
⇒岡部えつ『枯骨の恋』6月5日発売
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by etsu_okabe | 2009-06-05 04:36 | 日々のこと/エッセー