小説を書いたり、酒を飲んだり、恋をしたり|岡部えつ


by etsu_okabe

愛と酒と故郷(ふるさと)と

 久しぶりに前橋に帰った。
 両毛線に揺られて利根川を越え、前橋駅に近づいて車両が減速を始める頃、車窓から懐かしい建物が見えてくる。二十代前半、家を飛び出して男の子と暮らした、思い出のアパートだ。
 朝、同じ電車を逆方向に、高崎の会社に向かっているとき、ふと窓に目をやると、彼がベランダから手を振っていたことが何度かあった。こちらの様子など見えるはずもないのだが、わたしが見ていると信じて、振ってくれていた。与えられるものは惜しげもなく差し出してくれる、優しい人だった。
 わたしが本を出せたことは、彼との日々が少なからず影響している。お礼を言いたいが、わたしは彼のお墓の場所さえしらない。どうしようもない薄情な女だ。仕方ないので、アパートに向かって「ありがとう」と呟いた。あれから二十年以上経つというのに、建物は気味が悪いほど古びておらず、今にも彼が顔を出しそうに見えた。

 前橋駅に着くと、急な依頼にも関わらず運転手役を買ってでてくれた前橋在住の友人が、迎えに来てくれていた。
 メールで簡単に伝えておいたスケジュール通り、まずは紀伊国屋前橋店へ向かう。もちろん『枯骨の恋』のチェックだ。
 巨大ショッピングモール内にあるお店を覗くと、あったあった! 新刊コーナーのいい場所に、なんと三面の平積み。嬉しくてつい書店員さんに話しかけてしまう。すると、
「上毛新聞のインタビュー読みました。応援してます!」
 と、これまた嬉しいお言葉をかけてくださった上に、本5冊と色紙にサインを書かせてくださった。紀伊国屋書店新宿本店に続いて二度目のサイン本&手書きメッセージ、ありがとうございました♪
 その間、友人が一冊買ってくれているので「あなた、授賞式でお土産にもらっていったでしょ」と言うと、それは友だちにあげるのだと言う。これまでにも、何冊か自分で買っては、興味のありそうな人にプレゼントしてくれていたと知り、感激。

 続いて、前橋の書店といえばここという老舗、煥乎堂(かんこどう)へ。子供の頃、父に連れられて何度来たことか。学生時代も本を買うといえばここだった。
 ところが、店内にわたしの本が、ない~~~~。うそお、ショックううう。
 慌ててレジで問い合わせてみると、入っていたが売り切れてしまったという。
「お取り寄せできますよ」
 とおっしゃるので正直に訳をお話すると、
「そうでしたか! またすぐに入れますね」
 と恐縮して言ってくださったので、よろしくお願いしますと頭を下げて店をあとにした。

 次に向かったのは、わたしの大好きな敷島公園。園内のギャラリーで開かれている『金井田英津子 原画展』が、今回の帰郷の第二の目的だったのだ。
 『幽』編集長・東雅夫さん編集『文豪怪談傑作選』の装丁でお馴染みのあの絵たちを、ナマでじっくりと堪能。
 音楽もそうだが、絵もやはり生の迫力は凄い。作家の息遣いやしっとり湿った体温のようなものが、じわじわと差し迫ってくる感じ。ギャラリーのBGMが何故かガムランだったのだが、それが不思議とマッチしていた。
 売られていた金井田さん挿画・装丁の本の中から、迷いに迷って朔太郎の「猫町」を買った。幼い頃、父の書棚で見つけて読んで、その不思議世界に魅了された作品だ。故郷にこんな素晴らしい作家がいることを、初めて知ったのもそのときだった。

 公園近くのイタリアンレストランでランチをしたあと、友人に父の実家まで送ってもらう。
 そこで待っていた伯父伯母にお土産を渡して挨拶し(この伯母は、本の発売日に紀伊国屋に従姉を走らせ、十冊も買ってくれたという)、従姉のR姉の運転する車へ乗り込んで出発!

 さてここからがこの日のメインイベント、数年に一度開かれる「岡部家いとこ会」だ。
 総勢15人のいとこたちが集い、それぞれのパートナーや子供も連れて、わいのわいのと飲み食いするのだが、久しぶりのその会が、このたびわたしの『枯骨の恋』出版祝賀パーティを開いてくれることになった。今回は、11名が参加というからすごい。
 場所は故郷群馬の名湯、伊香保温泉郷。
 お世話になった素晴らしい眺望の宿<晴観荘>の女将さんは、いとこ会会長であるK姉のお友だちで、わたしたちが到着するとご主人と二人で出迎えてくださったのだが、そこでK姉とR姉からいきなり『枯骨の恋』の宣伝を浴び、勢いでK姉所持の一冊を購入してくださった。前橋で本の売上がいいとしたら、K&R姉妹の営業力のたまものに違いない。
 そして嬉しかったのは、本を手に取ったとたんにご主人から、
「あ、この前上毛新聞に出てらした、あの!? 読みましたよ」
 という言葉が出たこと。
 紀伊国屋前橋店に続いて、この日二度目だ。サンキュー上毛新聞!

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 いとこたちから、お祝いにと贈られたスワロフスキーのクリスタルのふくろうは、今わたしの机の上にちょこんと立っている。メッセージカードには「目指せ、直木賞!」とあった。ははは。
 大いに飲んで、笑って、泣いて、
 わたしの喜びが、10倍、いや20倍、30倍にもなった1日だった。
 色んな辛いことや悔しいことがあったけど、そんなの全部吹き飛んだ。

⇒岡部えつ『枯骨の恋』詳細はこちら
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by etsu_okabe | 2009-07-01 01:34 | 小説関連の活動など