小説を書いたり、酒を飲んだり、恋をしたり|岡部えつ


by etsu_okabe

肌が忘れられない・・・|桜姫

a0013420_2064691.jpg 先月の話になるが、コクーン歌舞伎「桜姫」を観た。
 ⇒あらすじはこちらから適当にお調べください。非常に複雑な筋なので、わたしには説明しきれません。。。

 このお話の中でわたしが最も心惹かれたのは、17歳の桜姫が、たった一度自分を手篭めにした盗賊の肌を忘れられず、男の体にあったのと同じ絵柄の刺青を自らの体に入れ、そのとき宿した子供を産み落としてひっそりと育てながら、顔も知らないその男を恋い慕い続けていたというエピソード。
 そりゃあ相手が橋之助だもん、無理もない・・・・・・って、んなわけなかろう! 橋之助だろうがベニチオ・デル・トロだろうが、レイプ男に女が惚れてしまうなんてことはありえない。無理やりでも女は気持ちよくなると思いこんでいる男の大バカ幻想は、こんな大昔からあったのか、こんちくしょー。鶴屋南北のトウヘンボク~~~!
 と、普段のわたしならここでプンプン怒って終わるのだが、そうはさせないのがこのお芝居のすごいところ。
 ひょんなことで再会した二人が刺青を見て相手を知り、これは懐かしいと再び肌を合わせるという、現実ならとんでもないシーン。ところが舞台上のこれがもう、ため息で窒息してしまいそうなほど、美しい濡れ場なのだ。
 大悪党の権助(橋之助)の、手練手管をこっち(観客)は知っているから、箱入りのお姫様(七之助)がやすやすと落ちていくのを「ああん、ばかばか!」とはらはら見守っているつもりが、気がつけば色男の熱い流し目、甘い口説きに自分もまんまと射落とされ、身悶えしながらハンカチの角を噛んでいる。もうっ、あたしのばかばか! だからダメなのよう~!!(以下省略)

 こっほん。
 それにしても「肌が忘れられない」とは、実に色っぽい言葉である。頭ではとうに忘れた男のことを、ふとしたことで体が思い出して切ながる。「ああ、分かる」と、そこここから女たちの声が上がったような(笑)。
 激しかったわりに通り雨のようにあっけなく終わってしまった恋や、先行きが初めから見えなかった後ろめたい恋など、これといっていい思い出もなければ自慢話にもならない恋愛でも、「肌が忘れられないのよね」と言ったとたんに、ぽおっと赤味がさしてくるから不思議だ。

 おぼこ娘のような桜姫も、案外この手で自分を慰めていたのかもしれない。本当は忘れたい真っ黒な思い出の暴行事件を、相手の肌を恋しがることでいい思い出にすり変えて、忘れてはならぬ証拠の刺青をしっかりその身に刻みつけ、会ったが最後がぶりと食らいつき、きっちりと恨みを晴らす。実際の芝居のストーリー展開は違うが、結局最後、桜姫は権助を殺すのだ。
 そう思うと、あの妖艶な濡れ場も、桜姫の憎悪と謀略の潜んでいることに気づいて、ぞっとする。あ、もちろんこれは、勝手なわたしの解釈ですけどね。

 桜姫にはもうひとつ、メインと言える僧侶・清玄(勘三郎)との物語がある。これもまた男色から始まって・・・・・・ああ、一度にこんな濃い話は無理。またいつかの機会に。
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by etsu_okabe | 2009-08-02 20:11 | 映画/芝居のこと