恐怖を知れ|絵本『しでむし』
2009年 08月 09日
初の絵本「しでむし」を上梓された舘野鴻(たてのひろし)さんの原画展&トークショーに行って来た。かねてより、佐渡ケ島の三節さんから「面白い男がいる。引き合わせたい」と言われていた人だ。
しでむし=死出虫、別名「埋葬虫」は動物の死体を食べる虫で、繁殖のときも、動物の死体を肉だんごにして土に埋め、その横に卵を産みつけるという方法で、子育てをする。自然界の中では、死体を土に返すという重要な役割を担っている虫。
と、ちょこっと調べただけでも「しでむし」に興味がわいたし、三節さんから聞いていた「この絵本を作るために、あかねずみを育てることから始めた」という舘野さんの製作エピソードにも強烈に惹かれていて、ぜひお会いしたいと思っていた。
ギャラリーに着くと、壁にずらりとかかっているのは、見ての通りの細密画。気の遠くなるような細く、細かく、緻密な筆致が、小さくて偉大な命を愛情いっぱいに描いている。その一枚一枚をよおく見ると、遠くからでは分からないようなもっと小さな命(ダニとか!)が描かれていたりと、ところどころにくすりとさせるユーモアもあって、描かれた時間の分だけ、見る側に色んな物語を見せてくれる、そんな絵たちばかり。
やがて始まったトークショーも、舘野さんの人柄が伝わる大変面白いものだった。こういう仕事を成し遂げた方だからこその、重みのある言葉がたくさん放り投げられていたが、さてどれだけキャッチできただろう。
いくつか、印象に残った彼の言葉をここに残しておこう。
「林の中は、生死がうずまいている」
「山にこもってみると、裸の人間ほど弱い者はないと思う。そこで生きている生物たちを尊敬する。だから美しく描きたい」
「ねずみの誕生から書いたのは、しでむしの餌になるねずみにも、人生があったのだということを描きたかったから」
「描いているときは、絵と一体になっている。しかし、描き終えたとたん、それは猛スピードで過去のものになる」
「虫に触れて、気持ち悪かったり痛かったり、そういうものを感じて、人はもっと恐怖感を知るべきだ」
終わるとすぐに絵本を買い、飛んで行ってお声をかけた。
サインをもらう間、わたしがざっくりと自己紹介(怪談書いてます、など)をしつつ感想を述べると、またそこで次々に興味を惹く話題を出してくる。頭の回転のいい方なのだ。
「死体から出てくる虫の種類によって、死亡推定時刻が分かったりもするんですよ」
なにぃ! ああもうちょっと、そこんとこ掘り下げたいんですけども!!!
というような話が、次々と。
そういう方の作った絵本「しでむし」。
大きなドラマはない。しかし、人の心を大きく揺さぶる物語が詰まっている。
-----------------------------
帰りにバス停で並んでいると、そこで列を作っている人たちがみんな、草むらを覗いている。
トークショーにいた人たちだ。
その気持ちがすっごく分かって、くすくす笑いながら、わたしもそっと草むらを覗いた。
しでむし=死出虫、別名「埋葬虫」は動物の死体を食べる虫で、繁殖のときも、動物の死体を肉だんごにして土に埋め、その横に卵を産みつけるという方法で、子育てをする。自然界の中では、死体を土に返すという重要な役割を担っている虫。
と、ちょこっと調べただけでも「しでむし」に興味がわいたし、三節さんから聞いていた「この絵本を作るために、あかねずみを育てることから始めた」という舘野さんの製作エピソードにも強烈に惹かれていて、ぜひお会いしたいと思っていた。
ギャラリーに着くと、壁にずらりとかかっているのは、見ての通りの細密画。気の遠くなるような細く、細かく、緻密な筆致が、小さくて偉大な命を愛情いっぱいに描いている。その一枚一枚をよおく見ると、遠くからでは分からないようなもっと小さな命(ダニとか!)が描かれていたりと、ところどころにくすりとさせるユーモアもあって、描かれた時間の分だけ、見る側に色んな物語を見せてくれる、そんな絵たちばかり。
やがて始まったトークショーも、舘野さんの人柄が伝わる大変面白いものだった。こういう仕事を成し遂げた方だからこその、重みのある言葉がたくさん放り投げられていたが、さてどれだけキャッチできただろう。
いくつか、印象に残った彼の言葉をここに残しておこう。
「林の中は、生死がうずまいている」
「山にこもってみると、裸の人間ほど弱い者はないと思う。そこで生きている生物たちを尊敬する。だから美しく描きたい」
「ねずみの誕生から書いたのは、しでむしの餌になるねずみにも、人生があったのだということを描きたかったから」
「描いているときは、絵と一体になっている。しかし、描き終えたとたん、それは猛スピードで過去のものになる」
「虫に触れて、気持ち悪かったり痛かったり、そういうものを感じて、人はもっと恐怖感を知るべきだ」
終わるとすぐに絵本を買い、飛んで行ってお声をかけた。
サインをもらう間、わたしがざっくりと自己紹介(怪談書いてます、など)をしつつ感想を述べると、またそこで次々に興味を惹く話題を出してくる。頭の回転のいい方なのだ。
「死体から出てくる虫の種類によって、死亡推定時刻が分かったりもするんですよ」
なにぃ! ああもうちょっと、そこんとこ掘り下げたいんですけども!!!
というような話が、次々と。
そういう方の作った絵本「しでむし」。
大きなドラマはない。しかし、人の心を大きく揺さぶる物語が詰まっている。
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帰りにバス停で並んでいると、そこで列を作っている人たちがみんな、草むらを覗いている。
トークショーにいた人たちだ。
その気持ちがすっごく分かって、くすくす笑いながら、わたしもそっと草むらを覗いた。
by etsu_okabe
| 2009-08-09 19:45
| 日々のこと/エッセー