小説を書いたり、酒を飲んだり、恋をしたり|岡部えつ


by etsu_okabe

恐怖を知れ|絵本『しでむし』

a0013420_9114416.jpg 初の絵本「しでむし」を上梓された舘野鴻(たてのひろし)さんの原画展&トークショーに行って来た。かねてより、佐渡ケ島の三節さんから「面白い男がいる。引き合わせたい」と言われていた人だ。

 しでむし=死出虫、別名「埋葬虫」は動物の死体を食べる虫で、繁殖のときも、動物の死体を肉だんごにして土に埋め、その横に卵を産みつけるという方法で、子育てをする。自然界の中では、死体を土に返すという重要な役割を担っている虫。

 と、ちょこっと調べただけでも「しでむし」に興味がわいたし、三節さんから聞いていた「この絵本を作るために、あかねずみを育てることから始めた」という舘野さんの製作エピソードにも強烈に惹かれていて、ぜひお会いしたいと思っていた。

 ギャラリーに着くと、壁にずらりとかかっているのは、見ての通りの細密画。気の遠くなるような細く、細かく、緻密な筆致が、小さくて偉大な命を愛情いっぱいに描いている。その一枚一枚をよおく見ると、遠くからでは分からないようなもっと小さな命(ダニとか!)が描かれていたりと、ところどころにくすりとさせるユーモアもあって、描かれた時間の分だけ、見る側に色んな物語を見せてくれる、そんな絵たちばかり。
 やがて始まったトークショーも、舘野さんの人柄が伝わる大変面白いものだった。こういう仕事を成し遂げた方だからこその、重みのある言葉がたくさん放り投げられていたが、さてどれだけキャッチできただろう。
 いくつか、印象に残った彼の言葉をここに残しておこう。

林の中は、生死がうずまいている
「山にこもってみると、裸の人間ほど弱い者はないと思う。そこで生きている生物たちを尊敬する。だから美しく描きたい」
「ねずみの誕生から書いたのは、しでむしの餌になるねずみにも、人生があったのだということを描きたかったから」
描いているときは、絵と一体になっている。しかし、描き終えたとたん、それは猛スピードで過去のものになる
「虫に触れて、気持ち悪かったり痛かったり、そういうものを感じて、人はもっと恐怖感を知るべきだ

 終わるとすぐに絵本を買い、飛んで行ってお声をかけた。
 サインをもらう間、わたしがざっくりと自己紹介(怪談書いてます、など)をしつつ感想を述べると、またそこで次々に興味を惹く話題を出してくる。頭の回転のいい方なのだ。
「死体から出てくる虫の種類によって、死亡推定時刻が分かったりもするんですよ」
 なにぃ! ああもうちょっと、そこんとこ掘り下げたいんですけども!!!
 というような話が、次々と。

 そういう方の作った絵本「しでむし」。
 大きなドラマはない。しかし、人の心を大きく揺さぶる物語が詰まっている。

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 帰りにバス停で並んでいると、そこで列を作っている人たちがみんな、草むらを覗いている。
 トークショーにいた人たちだ。
 その気持ちがすっごく分かって、くすくす笑いながら、わたしもそっと草むらを覗いた。
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by etsu_okabe | 2009-08-09 19:45 | 日々のこと/エッセー