小説を書いたり、酒を飲んだり、恋をしたり|岡部えつ


by etsu_okabe

ぶしつけ

【ぶしつけ】
礼を欠くこと。無作法なこと。また、そのさま。無礼。
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 最初は葉書だった。
 差出人は、二十数年前にとある場所で同じ時間を過ごしたことのある人のようだが、名前を聞いてもまったく覚えがない。こっちもそうなのだから、相手も同様なのだろう、「●年に●●●にいらした岡部さんだと思いますが」という書き出しだった。
 年齢が書いてあったので、彼がその場所でどのような立場だったかは分かったが、誰だかは思い出せない。しかし、地元紙を読み、拙著も読んで連絡をくれたその人に、わたしはきちんとお礼の葉書を書いた。中身は本当に、お礼と時候の挨拶だけだ。「あなたに会いたい」などとは、一切書いていない。

 ところがすぐに来た返事に、「上京したら会おう」というようなことが書いてあった。それが、なんともいや~な感じの文面で、素直に「わあ嬉しい、お会いしたいな」、という気にならない。来るもの拒まずのわたしなのに、どうしたことか。んーーー、なんだ、この胸くそ悪い感覚は。
 何度も読み返して、理由が分かった。そこには、「もしよろしければ会いたいのですが、いかがでしょうか?」というような、わたしの都合や気持ちを尋ねる文言が全くなかったのだ。まるでわたしがその人に会いたがっているのが前提のような、あつかましい文章だった。

 変な人だと思いながら返事を出さずに放っておいたら、なんと今度は出版社に電話があり、わたしの電話番号を訊ねてきたという。おいおい、なにごとだ。
 こちらからかけるからわたしの電話番号は教えないでくれと頼み、その人の番号を聞いた。気が重たかったが、そこまでするということは、もしかしたらわたしがうっかり忘れているだけで、実はとんでもなくお世話になった人かもしれない。そう思いなおして、おそるおそる電話をかけてみた。
 するとあきれたことに、相手は通り一遍の挨拶のあと、当時の思い出話もなにもなく、いきなり大声でこうきた。
「電話番号!」
 一瞬、何を言われたのか分からなかった。
「は? なんですか?」
「いやだから、岡部さんの電話番号をね!(威圧するような、でかい声)」
「わたしの、電話番号ですか?」
「そう、今、控えますから。はい(さあ言え、という感じ)」
「あの、どういったわけでわたしの電話番号を・・・・・・」
「上京したら会おうと葉書に書いたでしょう、電話番号を聞いておかないと、連絡できないから」
「へ?」
 さっきも書いたが、ここまでの間、二十数年前の話は一切出ていない。やはりこの人、わたしと共通の思い出などまるっきりないのだ。わたしのことを覚えてもいないのだろう。ただ新聞を見て、ある時期ある場所で同じ時間を過ごしたことがあるというだけで、こんな無礼を働いているのだ。
「・・・・・・あの、すみませんがわたし、あまり人に電話番号はお教えしてないので」
 と大ウソをかますと、電話は切れた。

 実は話しているうち、声と喋り方を聞いていて、はっきりと思い出していた。わたしあの頃、あなたのことが大嫌いだったわ。

 この無礼者は、わたしの親よりもひと世代上の大人で、しかも世の中からは「先生」と呼ばれている人種だ。本当に悔しいが、あっちは今でも女子高生のわたしのことなど微塵も思い出していないだろう。なにしろ女ばっかり、1学年9クラスもあったのだ。
 顔も覚えていない教え子(つーか、多分教わってない)でも、連絡をすれば「先生、先生」と崇めてくれるとでも思ったのだろうか。教師ってなんだよ。

 なんだかとっても暗い気持ちになって、今日は早めに寝ようと化粧を落としたところに、誘いの電話from新宿。これから化粧し直したら、店に到着したところで終電だ。涙を呑んで断った。
 ああ、むしゃくしゃするう~~~~! 
 最近家で飲むのを控えているのだが、今夜は解禁にさせてもらう。
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by etsu_okabe | 2009-08-21 00:53 | 日々のこと/エッセー