小説を書いたり、酒を飲んだり、恋をしたり|岡部えつ


by etsu_okabe

二人きり

 携帯電話の番号しか教え合っておらず、共通の知人もいない。だから、彼はある日突然わたしが死んでも、誰からもそれを知らされることはない。急にわたしが電話に出なくなったりメールに返信しなくなっても、「男でもできたかな」で済まされて、それっきりになってしまうだろう。家を訪ねて来てくれたとしても、誰もいなければ「やっぱりな」でおしまいだ。
 そういう関係の人から先日、久し振りに電話がかかってきたのを、わたしは取らなかった。ちょうど仕事をしていて、集中を断ちたくなかったからだ。しばらくしてから録音されていたメッセージを再生してみると、うめくようなくぐもった声で何を言っているのかさっぱり聞き取れない。夜中だったから酔っているのかもしれないと、メッセージは消去し、メールを送った。
 しかし、翌朝になっても返信がない。今までにはなかったことだ。
 いやな気持ちで1日過ごし、2日過ごし……今日で5日が経った。夜になって、最悪な想像に苦しんでいる。彼には重篤な持病があることを、わたしは知っているのだ。
 それでもわたしには、確かめるすべがない。心の中に、真っ黒な穴があいている。
 “二人きり”という人間関係は、一人ぼっちよりもなんだか寂しい。

 彼が好きだったギタリスト&ヴォーカリスト長谷川きよしの音を漁っていたら、こんな逸品を見つけた。大好きな映画音楽「黒いオルフェ」。サックスは本多俊之。


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by etsu_okabe | 2010-01-21 03:23 | 日々のこと/エッセー