小説を書いたり、酒を飲んだり、恋をしたり|岡部えつ


by etsu_okabe

恋する匂い

 行きつけのバーのマスターが突然「絶対えっちゃんと気が合うと思う男性がいる!」と言いだし、その人を呼んでくれた。
 よそで飲んでいたその人も、わたしの方も友だち連れだったので、カウンターだけの店では全くひとことも会話はできなかったが、紹介してくれたマスターの手前、帰り際に電話番号とメアドのメモをもらって別れた。彼の第一印象は、悪くなかった。

 その後なかなか会う時間が取れず、メールと電話だけで何度か交流をした。
 マスターの見立て通り、趣味趣向のベクトルが同じ方向の人で、1言ったら5返ってくるような会話が続き、「これはもしかしたら!」と、思った。つまり、わたしは彼のメールの文章と電話の声に、軽〜く「恋」をしていたのだと思う。

 気分がすっかり盛り上がったところで、やっと彼と会う日になった。
 思った通り会話は途切れることもなく、本当に本当に楽しい時間だった。今まで誰とも共有できなかった話題(寺山修司の実験映画についてとか...共有しにくいよね)にも触れることができて、嬉しくていつにも増してお喋りになった。

 なのに、なのに。
 ちっとも、ドキドキしない。

 わたしという女は、滅法惚れっぽい。しょっちゅう恋に落ちている。20代の男の子から60代のおじさままで、会えば目がハート型になってしまう男性が何人もいる。ちと大袈裟に言えば、わたしの周りにいるオトコは、その9割がたがわたしに惚れられていると思っていい。
 迷惑だろうがややこしかろうが、そういう体質なのだ。憎むより100倍いいでしょ?

 だから、こういう展開は逆に珍しい。しかも、メールや電話ですっかり気分がそのモードになっていただけに、失望感は大きかった。
 その人に「何かが足りなかった」わけでも、「何かが多すぎた」わけでもない。なんだろう、これは。

 匂い、みたいなものかもしれない。
 メールや電話では決して感じることのできない、人のナマミの身体から発する「何か」に対して、わたしの本能的な感覚が「NO!」と言っているとしか思えないのだ。
 そう考えると、今までわたしが「絶対にタイプじゃない!」はずの男とつきあってしまったりした理由もわかる。その人のバックグラウンドとか経歴とか性格には関係なく、「匂い」に惹きつけられていたのだ。

 本来、人はきっと他の動物と同様、最初に相手の「匂い」を確かめてから恋をするようにできていたのだと思う。ところが文明が発達するにつれ、郵便、電話、インターネットと、「匂い」より先に、人柄やバックグラウンドを探れるようになってしまった。
 お陰で、恋に「条件」がつけられるようになった。トラブルが生じるのも当然だ。

 これからは、もっと自分の本能に忠実に、プリミティブに生きていこう。
 そう決意して、食欲の秋、到来。
[PR]
by etsu_okabe | 2004-09-05 03:44 | 日々のこと/エッセー