小説を書いたり、酒を飲んだり、恋をしたり|岡部えつ


by etsu_okabe

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恨めしや

 秋の声を聞きながら、三遊亭円朝『真景累ケ淵』(岩波文庫/復刻版)を読む。
 落語の聞き書きというテンポで読む物語りは、旧仮名遣いも気にならない面白さ。

 日本の怪談話というのは、実は恋バナ。化けて出る女の恨みつらみはこれ、なんとも切ない恋慕の想いだ。
 だから悲しい。怖いけど悲しい。
 ああ、分かる......分かっちゃうのねン。

 ところで、日本の女の幽霊は「恨めしや〜」と言って出る。よくよく考えてみれば、なんという慎み深さだろうか。
「恨めしい」とは、「悲しい」とか「寂しい」とかと同じ、自分の感情を言い表した形容詞だ。つまり、ただひっそりと、
「こんな風に捨てられて、わたしはあなたを恨みたい気持ちなんですよ」
と、自分の気持ちを吐露しているだけに過ぎない。
「てめーが憎いからぶっ殺してやるー」
 てな、アグレッシブな意味合いは、これっぽっちもないのだ。
 そう思うと、
「恨めしや〜〜〜」
 ああ、可愛らしい。いじらしい。
 それを「怖い怖い」と腰を抜かしているのは、身に覚えのある男だけ。
 くれぐれも、色恋ごとは、誠実に。
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by etsu_okabe | 2006-09-09 00:34 | 日々のこと/エッセー