小説を書いたり、酒を飲んだり、恋をしたり|岡部えつ


by etsu_okabe

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女の一人酒場

 声を大にして堂々と好きだと言えるものはそうないが、これだけははっきりと、
「酒場が好きだ」
 重たかったり干涸びていたり熱かったり冷たかったり、様々なモノを背負った人たちが、荷物を降ろしにやって来る。そこにはそれを丸ごと受け取って、しゃっしゃとさばいてくれる店主がいる。しかし両者の間には磨き上げられたカウンターがあり、決してなあなあな馴れ合いは許さない。お尻も背中も温かいが、あくまでも薄情。こんな居心地のよい場所、他にあろうか。
 わたしも客として、荷を降ろしにドアを開ける。行くときは一人、多くても二人だ。示し合わせて大勢でわいわいと行くのは、たとえそこが居酒屋であってもバーであっても、役目はレストランだとわたしは思っている。酒場とは、盛り上がる場所ではなく、しんみりとものを思う場所なのだ。
 今夜も荷物を抱えた一人ぼっちが、あっちのネオン、こっちのネオンと寄り集まり、アルコールとニコチンと小さく流れる音楽を胸に染み込ませ、慰められているのだろう。
 ああ、いいなあ。
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by etsu_okabe | 2011-10-29 17:29 | 女の一人酒場

佐渡島の夏休み

 佐渡島の西北、外海府にある国民宿舎『海府荘(かいふそう)』で、晩夏の8日間を過ごした。
 目的は、集中して書くこと、である。
 滞在先として佐渡島を選んだのには、わけがある。ここに移住して20年近い友人が、この宿を<仕事場>として熱烈に勧めてくれたのだ。
>>ブログにも

 到着してみれば、目の前には勇壮な関岬がせり出す関港。『海府荘』は、そこから船を出して釣りを楽しむ人たちを長年主な顧客としてきたようだが、二代目ご主人が営む現『海府荘』には、知れば知るほど「それだけじゃもったいない!」と外野が口出ししたくなる要素が詰まっていた。さてそれはなにか。

 宿の三要素といえば、環境ともてなしと費用、であろう。

 まずは環境について。
 わたしが泊まった本館の客室は、全てオーシャンビューである。一階だが高台にあるので、障害物は一切なく、関岬、関港、そこから広がる日本海を一望に見渡せる。わたしの目的を知ってくださっていたご主人は、中でも最も静かな一番奥の部屋を用意してくれていた。
 わたしは毎日、日が出る頃にはその窓辺に置かれた椅子に腰掛け、書き物を始めた。集中が切れれば海を眺め、眠気がくればころんと横になり、そして日暮れには、岬に沈むゆく夕日に見とれる。
 風呂とトイレは共同である。その風呂もまた、客室と同じオーシャンビューなので、わたしは時折頃合いを見計らって入浴し、湯船から日の入りを眺めるという贅沢な時間を過ごした。ちなみに風呂は24時間いつでも入れる、ジャグジー付きである。
 書き物ばかりしていては、運動不足になる。そこで目の前の海岸に散歩に出るわけだが、季節外れということもあり、そこには朝も夕方も人っ子一人いない。岬に広がる森を縄張りにする番いらしき鳶が二羽、気持ち良さそうに飛んでいるばかりである。360度くるりと回っても日本海を独り占め、これを寂しいととる人もいようが、わたしには最高にリッチなコースだった。

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 この宿の何より一番の特徴は、ご主人がかつて、名を聞けば誰もが知る都内三ツ星フレンチレストランのキュイジニエ(料理人のこと。フランス語ってカッコいい♪)であった、ということであろう。
 その主が、地元で仕入れた、あるいは自らその日海に潜って穫ってきた、これ以上にないぴっちぴちの新鮮な食材を使って、腕を振るってくれるのである。美味しくないわけがない。
 わたしには、宿の案内に掲載されているような豪勢な磯料理を、8日間毎晩平らげる体力はないので、最初から「朝食つき、夕食抜き」で予約をとっていた。その際「夕食は、地酒を2合ほどに肴が2、3品程度あればいいのですが……」と問い合わせたところ、快く「ご用意します」とおっしゃってくださった。

「長期滞在のお客様には、なるべく要望を出してもらって、それを叶えて差し上げたい」

 というのが、海府荘の方針だそうだ。ここ、ここが肝心。この部分でわたしは今回、本当に気持ちのいい時間を過ごすことができた。
 さあそして夕食、蓋を開けてみればこの豪勢な「肴」の数々である(まだまだあるけど載せきれません!)。
 グルメではないのでその解説はいちいち書かないが、分かる人には分かるであろう。佐渡の旨い地酒(今回は真稜)が、進むったらありゃしないのである。昼間使い倒してよれよれの神経が、ふあ~っと息を吹き返して膨らんでいく、そんなまさに”慈しみ”の料理の数々であった。
 料理を運んでくれるのは、ご主人の奥様である若女将(美女!)と、息子さんたちである。彼らは時に、一人で食べているわたしの話し相手になってくれた。魚にまったく疎いわたしに、図鑑を持ってきて説明してくれた日もあった。
 ご主人が元フレンチのコックさんならばと、ある晩ワインを頼んでみれば、これがもう「ここ本当に佐渡島? マルタ島とかじゃないの?」と、行ったこともないマルタ島に贋デジャブをしてしまうほどの、魚介に合ったさっぱり系の赤ワインに、工夫に工夫をこらした絶品西洋料理が並ぶのである。
 そして、パン。パン! わたしの愛するパン(パン屋の娘ですので)!
 なんとこの宿では、自家製のパンを焼いているのである。これも長期滞在の場合、所望すれば、朝食に焼きたてのパンが食べられる。それも数種類の、食事パンから菓子パンまで。もうもう幸せ!

 最後に、費用である。
 これは、宿のホームページを見ていただくのがよいだろう。→http://kaifusou.com/
 わたしの場合は、本館夕食抜きなので、基本一泊5,500円(あれだけのサービスを受けてもさすが国民宿舎、安い!)。プラス、長期滞在ゆえに、特別に作ってもらった夕食である。これがもう、考えられないような安価であった。季節や食材、酒の種類によっても変わってくるであろうから、ここには書かないが、佐渡だからこその、いや海府荘だからこその、思わずきゃーっと叫んでしまったお値段である。

 わたしはこの宿で、毎朝4~5時には自然に目覚め、1~2時間ほど書き物をしてから朝食、気が向けば散歩、そしてまた執筆、昼食は持参したナッツ類を軽く摂る程度で書き続け、夕方には風呂、気が向けば散歩をして、19時には晩酌を始める。そして、21~22時にはもう布団に入ってしまう、という8日間を過ごした。
 なんという充実。
 しかもその間、体に摂り込むのは、新鮮で美味しくて優しい、佐渡の料理と地酒なのである。時にはワインもね。
 その日に使い果たしたものはその晩のうちに補給して、翌日にはまたパワー全開で創作に打ち込む。そんな当たり前なのに普段はできない生活を、たっぷりとここで過ごすことができた。

 追記すべきこととしては、まず、無線LAN接続が可能ということ。ただし、部屋によっては電波が届かないので、ロビーの方まで行かねばならない。わたしのように、日に2度ほどメールチェックをする程度であれば、なんの不便もなかった。
 それからテレビ。通常部屋にテレビはないが、長期滞在客には、希望があれば設置してくれるそうだ。しかしわたしのような目的であれば、不要であろう。
 そしてもうひとつ。散歩していた関港の海岸には、バブルの頃に整備したという、きれいなテラスができているのだが、いるのはフナムシだけなのである。ここに日暮れどき、テーブルと海府荘のご主人に拵えてもらった料理を運び込み、夕日を眺めながらきんと冷えた白ワインなんぞをやったら、最っ高ではないか!! と。これはわたしの夢想である。しかしできないことではない気がする。いつかきっとやろう。さすがにこのときばかりは、一人ではなく。食いしん坊の友人たちとわいわいでもいいだろうし、素敵な男性と二人ってのもいいな。夢想、夢想、ああ夢想……。

 あきれたことに、わたしは宿にジャケットを忘れて帰ってきてしまった。ご丁寧に、宅急便で送ってくださったその荷の中に、心に染みるメッセージカード。
 海府荘、どこまでも素敵な宿である。
 あまりに素敵で感動したので、回し者的に、宿の紹介記事を書いてしまった。
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by etsu_okabe | 2011-10-16 20:03 | 旅のこと