小説を書いたり、酒を飲んだり、恋をしたり|岡部えつ


by etsu_okabe
『東電OL禁断の25時』をKindle版で読む。

 あの事件がいまだにわたしの心に棲み続けるのは、被害女性の背景に潜む"負の要素"に見つける自分との共通点が、年を重ねるごとに、石を積み上げるように少しずつ増えているからだと思う。
 たとえば「長女」、たとえば「敬愛する父親の喪失」、たとえば「適齢期をとうに越えた独身」、そして「女であること」。

 この本の著者の場合は「ホテトル嬢をしていた」という共通点を持つ。それも、ある時期同じ事務所に所属していたという、濃度の高い共通点だ。
 そんな著者が被害女性に思いを馳せて書くのは、どん底視点から観る、被害女性の心情。それは、おぞましさに眉をひそめながら指を舐め、清潔な障子を突いて空けた穴からは決して見えないものだ。唸りながら読んだ。
 そして本を閉じると、たった数ミリでも「高い位置」から他人を見下ろすことで悦に入る、そんな人間関係の中で、蟻地獄のすり鉢の砂を掻き掻き生きるわたしたちを、昼は輝かしき天上から、夜は穴の底の泥沼から、『東電OL』という偶像になる前の彼女が、嘲笑いながら眺める様が目に浮かんだ。
 わたしはまだ何も知らないし、わかっていない。


※10年前にこんな記事を書いていた。>>渋谷・円山町の気配に惹かれて




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# by etsu_okabe | 2014-03-20 20:02 | 日々のこと/エッセー

ストレスと晩酌

 半月ほど前から『中心性漿液性網脈絡膜症』という目の病を患っている。働き盛りの男性が罹患しやすい、過労やストレスが原因の病気だそうだ。
 症状としては、わたしの場合、左目の見えにくさがしばらく続いたあと、ある日突然、視界に黄色く丸い一枚のレンズのようなものがあらわれ、その向こう側が全て歪んで見えるようになった。右目をつむってしまうと、左目だけではほぼものを判別できない。本の文字などは、無精髭が踊っているような感じ。
 大学病院で検査を受け、病名がわかり、ひと月様子を見て自然治癒の見込みがない場合はレーザー治療を、ということになった。

 それから間もなくして、覚えのある腹痛に見舞われた。これまで何度も経験している胃腸炎の前兆である。
 七転八倒の発作だけは避けたいので、あわててかかりつけに飛んで行き、薬を処方してもらった。今もまだ、しくしくの痛みは続いている。

 今年に入って、気を揉むことがいくつかあった。
 まあきっとあれのせいだろうと察しはついていて、心の中ではすでに整理もついているので、あとからきた体の反応はお荷物でしかないのだが、自分の体なので面倒をみるしかない。

 わたしは神経は図太いくせに、ストレスには案外弱い。
 小学四年生のとき、市だか県だかの合唱コンクールでとても難しいピアノ伴奏を任され、リハ期間に何度か腹痛を起こしたあげく、本番の朝、家でさらっている最中に鼻血を出して、衣装の白いブラウスを汚してしまった。
 しかし、本番ではまったくあがることはなく、学校の音楽室で演るように、平気の平左で軽やかに弾ききった。そこがわたしの神経の太いところだ。そういうところでは緊張しないのだ。
 胃痙攣持ちになったのは、思春期初期の小学6年からで、それは今でも続いている。それがこじれて胃腸炎になったのではないかと、これは素人の推測だ。
 二冊目の本を出すとき、そのプレッシャーに人間関係の悩みがかけ算されて、睡眠障害になってしまったこともある。今は完治したが、あれもストレスだろう。

 とまあこう書くと、心の繊細なか弱き女のようだが、こうしてストレスをちゃんと感知して、信号としてすぐに報せてくれるわたしの体は、なかなかよくできていると思う。
 溜め込んで溜め込んで、がっくりいってしまうより、すぐにお腹が痛くなって「だめー、休む〜」と言わせてくれるほうが、良いにきまっている。

 さて。
 今回ストレスに対して、目とお腹に赤信号が点いたということは、つまり目とお腹を休ませなさいということであろう。しかし、仕事をする限り目は休めさせられない。
 そこで、せめてお腹だけでもと、ここ数日晩酌を控えているのだが、わたしの何よりのストレス解消は晩酌であるという矛盾と、どう向き合えばよいのだろうか。

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# by etsu_okabe | 2014-03-01 13:32 | 日々のこと/エッセー
 昨日新しい出会いに喜んでいたら、今日悲しいお別れがあった。
 そういえば先週も、寂しい送別会のすぐ後に、わくわくする出会いがあったっけ。
 数でいったら出会いの方が多いけど、重さでいったら別れの方が重い。
 新しく出会った人たちの中には、通り過ぎるだけの人もいれば、わたしの中で重さを増していく人もいるだろう。
 わたしの未来は、そうやって決まっていく。

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# by etsu_okabe | 2014-02-25 23:00 | 日々のこと/エッセー
 昨年ベルベットサンで公演した『業・朗読演奏会』が、『ワンダーランド wonderland 小劇場レビューマガジン』という演劇レビューサイトに取り上げられていました。

 インタビューを受けていらっしゃるのは、ケベック州芸術・文化評議会(CALQ)のアーティスト・イン・レジデンス制度で東京に半年間滞在されていた、劇作家、演出家、俳優であるアントワーヌ・ラブリーズさん。
 限られた滞在期間の中で、どのような経緯で「業」の公演を知ってくださったのかはわかりませんが、興味を持って足を運んでくださり、このように取り上げていただいたこと、とっても嬉しいです。

 次回公演の際は、外国人の観客も来るという前提で、何かしら物語を伝える工夫をしたいと思いました。

>>ワンダーランド wonderland 小劇場レビューマガジン|連載企画「外国人が見る小劇場」
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# by etsu_okabe | 2014-02-13 10:22 | 小説関連の活動など
 クローズアップ現代「あしたが見えない~深刻化する“若年女性”の貧困~」を見た。

 紹介された事例のうち、とりわけ、シングルマザーたちが働く「寮付き・食事付き・託児所付き」の風俗店のレポートに、背筋が寒くなった。
 一見良心的なようだが、いったん入ってしまえば、このシステムは彼女たちの大きな足枷となるだろう。なぜなら、この仕事を辞めるということは、同時に「家」と「食べ物」と「子供を預ける場所」を失うことになるからだ。

 特に「家」は、あらたに借りるためにどれだけの金と条件が必要か、一度でも経験したことのある人ならわかるはずだ。
 生活保護を申請しても通らず、やむなくこの底辺中の底辺である性産業に生活全てを委ねることになった彼女たちが、ここを辞めたとたんにホームレスに転落することは、目に見えている。

 一度足を踏み入れたら二度と這い上がれない蟻地獄を、わたしは想像してしまった。

 「社会保障の敗北」という言葉が使われていたが、まさにそうだと思う。
 そしてそれは、わたしの身にも確実に降りかかってくる。
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# by etsu_okabe | 2014-01-29 09:41 | 日々のこと/エッセー

火の用心

 恋は、鍋で湯を煮るのに似ている。

 ほどよくくつくつ煮えている湯は、恋慕の情。
 鍋の底でちろちろ燃えているのは、執着心や支配欲の火。

 火が強過ぎるとすぐに湯は減り、鍋は焦げついてしまう。
 かといって、火がなければ湯はあっという間に冷えきってしまう。

 ふと周りを見渡せば、そんな鍋がごろごろ打ち捨てられている。

 恋はいずれ終わる。
 最後の一滴が蒸発したとき、きっちり火も消そう。
 
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# by etsu_okabe | 2014-01-23 20:30 | 日々のこと/エッセー
 男は、ふたつの(あるいはそれ以上の)場所を持ちたいと思っている。それは簡単に言うと「日常の世界」と「非日常の世界」だ。そしてそれぞれの場所に、別のパートナーを欲しいと思っている。思うだけでなく、実行している男も多い。

 さて、女は、どちらの場所のパートナーとなるのが幸福なのか。

 ところで女だって、ふたつの(あるいはそれ以上の)場所が欲しい。それは男と同じく「日常の世界」と「非日常の世界」だ。しかし、それぞれの場所のパートナーは、同じ人がいい。
 つまり、男はタイプの違う沢山の魅力的な女が欲しくて、女は多様な顔を持つ一人の有能な男が欲しいのだ。

 ここが、男女の間に流れる、深くて暗い川なのではなかろうか。
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# by etsu_okabe | 2014-01-09 13:02 | 日々のこと/エッセー

もしものために。

 老人福祉施設で働く友人から、プレゼントをもらった。
 「もしもノート」と「エンディングノート」。

 わたしはこれまで、
「生は自分のものだが、死は残された人たちのものだから、わたしが死んだら残った者がどうとでもしてくれればいい」
 とのたまっていた。
 しかし、人の死に立ち会うことの多いその友人から、会う度に「現代の日本で死ぬとはどういうことか」を聞かされるうちに、生きている間に自分の死について果たすべき責任もある、ということに思い至った。

 最近とても大事な人、大好きな人を亡くしたこともあって、わたしは彼女に、
「身近な人たちに対して、自分の死について何を言い残しておくべきなのか、箇条書きにして教えて欲しい」
 と頼んでいた。そこで彼女はわたしに、この贈り物をくれたというわけだ。
 
 年越しのとき、集合した家族全員で、このノートを開いて話し合い、ゆっくり時間をかけて、書き込んでいきたいと思う。
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# by etsu_okabe | 2013-12-26 22:29 | 日々のこと/エッセー
業・朗読演奏会、無事に終えることができました。
お越しくださったお客様、支えてくださった方々、本当にありがとうございました。

怪しとエロスと女の情念を描く作家の朗読と、等身大人形の舞い、そしてフリージャズピアノと、韓国太鼓。
この、表現ジャンルも働かせる脳の部分も使う筋肉も、まったく違う面々が集まって、いったいどんなものが作り出せるのか、当初はまるで想像がつきませんでした。

本ができ、人形ができ、音楽ができました。
それが一か所に集まって、恐る恐る触れ合い、混じり合い、美味しくなったり不味くなったり喧々諤々やりながら、やがて整っていきました。

そして12月22日日曜日の夜、業のメンバー、ベルベットサンのスタッフの方たちやお手伝いしてくれた方たち、そして会場にお越し頂いたお客様たちが相俟って、この世界ができあがりました。

ありがとうございました。

業はこれきりではありません。続いていきます。
次はどんな世界ができるのか、他ならぬわたしたちが、もっとも楽しみにしています。

今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。

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後列左:スガダイロー(ピアノ)、後列中:飯田美千香(人形舞い)、後列右:儚(雪女の人形)、前列左:岡部えつ(原作・朗読)、前列中:ハマゴウ(狢穴の話の人形)、チェジェチョル(チャング)



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# by etsu_okabe | 2013-12-23 22:07 | 小説関連の活動など
【告知★御礼!札止め&当日券のお知らせ】
おかげさまで、たくさんのご予約をいただき、めでたく札止めとなりました。
当日券、出ることになりました。
ただし、立ち見席です。そして、枚数は少ないです。早く来られた方から順にとなりますので、お早めにお越し下さい。


『業(ごう)』朗読演奏会@荻窪ベルベットサン
2013年12月22日(日)19:30開場 20:00開演 charge¥2,500(1ドリンク付)
演目:「六花-Rocka-」「狢穴の話」
出演
原作・朗読:岡部えつ
人形師:飯田美千香
ピアノ:スガダイロー
チャング(杖鼓):チェ ジェチョル


大好きな表現者を3人集めたら、こんな頭髪逆立つメンバーが揃ってしまいました。
次があることを祈って、ユニット名もつけました。
「業(ごう)」。

スガダイローの凶器的ピアノと、チェジェチョルの陶酔のチャングに導かれ、辿りつく先は業火に焼かれる女の世界。人形師・飯田美千香の渾身の人形舞が、岡部えつの物語世界を、しっとりと、ときにぬめぬめと、そして轟々と演じます。

「六花」は雪女の物語。
「狢穴の話」は岡部えつ最新刊「生き直し」の作中にある物語です。

どうぞ、観にいらしてください。

>>『業』朗読演奏会Facebook
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# by etsu_okabe | 2013-12-14 10:39 | 小説関連の活動など