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小説家です|岡部えつ


by etsu_okabe

天使が来た。

 先週買った天使、「菅原克己全詩集」が届いた。
 目を瞑って開いたページの詩の一篇を読んでみよう。ええいっ、パッ。

 289ページ『いつの間にか夏になった』より、最後の5行を。

  いつの間にか夏になった。
  おう、青い麦の穂波よ、
  涙がでそうだ、
  お前が、毎年、
  ちっとも変わらぬことに。

 たったこれだけの抜粋でも、たくさんの物語が頭の中を駆け巡らないだろうか。
 10年も20年も、夏になれば変わらずにそこに現れる麦の穂波に埋もれているわたし。辛いできごとに泣いたことも、悲しい別れに苦しんだことも、移ろう日々の中の小さなホクロくらいのものだ。それでも悲しいし淋しいし苦しい自分と、ただ逞しくそこに在る、麦の穂。再生する命に囲まれた、滅びていくわたし。
 ん〜〜〜、切ない。

 わたしにとって、詩の大きな魅力は2つある。ひとつは、その上を行ったり来たり引き返したり逆さに読んだりと、アクロバチックに堪能できること。そしてもうひとつは、その一部分を掬いとり、ポケットに入れて持ち歩けることだ。
 今日の5行も、しばらく持ち歩いて時々眺めよう。

 話は変わるが、栞に高田渡のインタビュー記事が載っていた(案の定、吉祥寺『いせや』にて収録)。「ブラザー軒」をレコーディングしたとき、ミキサーの人が感動して全く手を動かせなくなってしまったのだそうだ。
 文字で読む「ブラザー軒」もまた、格別。

 汚れてめろめろになりそうな本が、また増えた。
by etsu_okabe | 2004-10-02 01:44 | 音・詩のこと