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小説家です|岡部えつ


by etsu_okabe

女の一人酒場

 声を大にして堂々と好きだと言えるものはそうないが、これだけははっきりと、
「酒場が好きだ」
 重たかったり干涸びていたり熱かったり冷たかったり、様々なモノを背負った人たちが、荷物を降ろしにやって来る。そこにはそれを丸ごと受け取って、しゃっしゃとさばいてくれる店主がいる。しかし両者の間には磨き上げられたカウンターがあり、決してなあなあな馴れ合いは許さない。お尻も背中も温かいが、あくまでも薄情。こんな居心地のよい場所、他にあろうか。
 わたしも客として、荷を降ろしにドアを開ける。行くときは一人、多くても二人だ。示し合わせて大勢でわいわいと行くのは、たとえそこが居酒屋であってもバーであっても、役目はレストランだとわたしは思っている。酒場とは、盛り上がる場所ではなく、しんみりとものを思う場所なのだ。
 今夜も荷物を抱えた一人ぼっちが、あっちのネオン、こっちのネオンと寄り集まり、アルコールとニコチンと小さく流れる音楽を胸に染み込ませ、慰められているのだろう。
 ああ、いいなあ。
by etsu_okabe | 2011-10-29 17:29 | 女の一人酒場