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小説家です|岡部えつ


by etsu_okabe

雨の土曜日、映画『酒とバラの日々』を観る。

 快楽は生きる糧であり、動機でもある。苦しいこともしんどいことも、その先にある快楽が予測できるからこそ乗り越えられる。快楽なくしてなんの人生ぞや。No Pleasure, No Life. 快楽礼賛、ビバ快楽!
 などとふだん気取って吐かしてはいるが、人生を豊かにしてくれる達成感や充足感といった「清らかな快楽」とはまったく別モノの、即物的な悪魔の快楽のほうにより馴染みのあるわたしとしては、笑いごとではない映画、『酒とバラの日々』を鑑賞。

 酒好きの陽気な男と、チョコレート好きの女の子が、恋に落ちて結婚をする。日々の接待仕事で酒に明け暮れる夫が、赤ん坊の世話にかまけて自分を顧みない妻をなじって発する「酒でも飲んで待っていてくれればいい」から始まる、二人のアルコール地獄。これがこの映画の物語のすべてだ。
 入院治療と更生施設を経てアルコール中毒から立ち直った夫に、アルコールと手を切れない妻が言う「さみしいの」「飲んでいないと世の中が汚く見える」という台詞は、快楽依存の果てに行き着く底なしの渇望を想像させ、わたしを震え上がらせた。
 この世にあまたある「依存症」を誘発する快楽。豊かな世の中というのは、この悪魔の触手をかいくぐるサバイバルゲームなのではなかろうか。
 ……とかなんとか考えた直後、今夜は家に一滴の酒の用意もないことに思い至り、「しまった!」と発してしまう体たらく。
by etsu_okabe | 2012-11-17 19:09 | 映画/芝居のこと