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小説家です|岡部えつ


by etsu_okabe

蟻地獄に梯子を。『NHKスペシャル 調査報告 女性たちの貧困』を観て。

 『NHKスペシャル 調査報告 女性たちの貧困』を観る。

 社会でバリバリ働きたくて奨学金を借りて(もらって、ではない)大学を出た子が、500万円以上の借金を背負って社会に出たものの、就職できぬまま時給800円のバイト生活を続けているという事例。
 その子の大学時代の友人で、運良く「正社員」雇用されたという女性の、毎日10時間働いて月給15万円ボーナスなしという、単純計算で年収180万円、時給換算で800円よりも低いという事例。
 家を借りる金がなく、ネットカフェで暮らす母と十代の娘二人という事例。
 シングルで妊娠したものの、子育てできる経済力がなく、子どもを手放す妊婦の事例。

 眉根に寄った皺が、戻らない。

 気になったのは、番組内でやたらと「自分の力で抜け出す」という言い回しがされていたことと、生活保護の話が微塵もされなかったことだ。
 わたしが大人しく今回の増税に従ったのは、彼女達のような存在を助ける福祉に、そのお金が回ると信じてのことだった。この時期に放送される番組であるなら、そのあたりをきっちり突っ込んでしかるべきではと、思わずにはおれない。

 そしてもうひとつ、出てきた女性たちが揃いも揃って「この貧困から抜け出すために」と勉強し、取得を目指しているのが、福祉関係の資格というのも気になった。つい最近、その薄給ゆえに離職する人が多いという報道を見たばかりの職種(介護職だったかな)だったからだ。
 本来頼って利用できるはずの彼女たちをとりこぼしている、今の福祉。そこにあえて身を投じようというのは、苦しみを知る彼女たちだからこそ持つ「苦しい人を助けたい」という、切実な感情からだと思う。
 これからの社会が、そうした人たちの感情や労働力を踏みにじるものであるなら、そこにはもう絶望しかない。
 わたしは、そんな社会に暮らしたくはない。

 貧困の問題は、そこに陥った人間の「怠惰」や「運命」の問題ではない。「社会がそれをどうするか」の問題だ。
 今、蟻地獄のように、そこに転落したものを見殺しにしていることが、わたしには不満で不安だ。
 どんな理由であれ、落ちた者が自力で這い上がれる「梯子」がかかっている社会であって欲しい。
 怠惰な人間は、梯子があっても上らないかもしれない。運の悪い人は、その梯子からまた落っこちてしまうかもしれない。
 しかしだからといって「梯子は無用」であるはずはない。
 たった今も、わたしの足下では、さらさらと砂が流れている。次の一歩で、蟻地獄にはまってしまうかもしれないのだ。


by etsu_okabe | 2014-05-06 15:58 | 日々のこと/エッセー