小説家です|岡部えつ


by etsu_okabe

ブコウスキー/オールド・パンク!

 a0013420_056895.jpgチャールズ・ブコウスキー。大好きだけれど、小説は数作しか読んでいない。作品よりも、作家に興味が向いてしまったせいかもしれない。
 この手の男に、女は滅法弱い。ダウンタウン松本が昔“ガキつか”で言っていたモテる男の定義「あたしがおらな!と思わせるやさぐれ男」、そのものがブコウスキーであろう(日本人代表はもちろん、火野正平!)。
 しかしわたしが最も惹かれるのは、そのやさぐれ度よりも、彼の視線だ。
 路地裏のドブ底から見上げるような、世の中の見つめ方。そこから紡ぎだす、ギラギラ輝く珠玉の言葉たち。それは泥まみれの真実であり、限りなくピュアな嘘っぱちなのだった。

 映画『Bukowski--OLD PUNK』で最も興味深かったのは、ブコウスキーが郵便局に勤めていた頃、自宅に小さな棚を作り、その仕分け作業の練習をしていたという下りだった。
 小説執筆と酒と女にしか興味がなく、食うための糧としてやむなく従事していた仕事。気の合う仲間もおらず、適当にサボったり一度は辞表を出したりと熱意の全くなかった仕事。それなのに、実はこっそりと自主練習するという<努力>を払っていたという彼の意外な一面は、手の届かない“地の底の人”というイメージ(もちろんこれは“雲の上の人”の対局という意味のリスペクト)から、彼をぐんと身近に感じられるエピソードだと思う。
 過酷な日々を送りながら、これほどまっとうでいられた彼の意志の強さに、わたしは圧倒される。報われぬままモノを書き続けているうちに神経を病んでしまう人が多い中、我らがブクはどんどん健康になっていったように思える。酒を浴びるほど飲んでも、女に失敗し続けても、書いたものがなかなかメジャーにならなくても、彼はあくまでも<健康>だったとわたしは思う。そしてそのことが、彼の最大の魅力なのだとも思う。
「あたしがおらな!」に女は弱いと言う。しかし、ギリギリのところで女が選択するのは、「あたしがおらな心配やけど、でも土壇場や修羅場ではあたしを抱えて逃げてくれる図太い男」なのだ。土壇場修羅場で泣き叫んでおしっこちびって揚げ句に自死してしまうような男は、正直、願い下げだ。
 彼のあの“味のある顔”には、様々な屈折が刻まれているように見える。しかし、それは笑っている。恨み言をつぶやきながら笑顔なのだ。わたしはそこに、強烈に惹かれる。

 ままならぬことを肯定しつつ、打破をはかる。そしてそれに成功する。そういう人に、わたしもなりたい。
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by etsu_okabe | 2005-11-03 00:56 | 映画/芝居のこと