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小説家です|岡部えつ


by etsu_okabe

パワーハラスメント

 とうとう退職することになった。
 以前書いた通り、わたしが1年2か月勤めた職場には、暴力上司がいた。彼の暴力は、相手の人権を無視した過度な叱責、つまり「キレる」ことがまずひとつ。他に「解雇」をちらつかせる脅し行為、個人的な用事で部下を使う不当行為があった。この1年の間に、わずか7名の部署スタッフのうち解雇者2人、自主退職者4人を出したといえば、その尋常ならざる状況が分かっていただけるだろうか。
 例を挙げよう。

●気に食わないことがあると一人をターゲットにし、みんなの見ている前で立たせ、相手を「てめぇ」呼ばわりで叱責する。その際「俺をナメてんのか」「うらぁ!なんとか言え!」「殺すぞ!」などの暴言。
●休んだり席を外したりしてその場にいない部下を引き合いに出し「○○君には辞めてもらおうと思っている」と解雇をちらつかせる。わたしは全員について解雇対象であることを聞かされた(わたし自身も欠勤した日に言われていたそうだ)。
●日常的な発言「いやなら辞めろ」。
●ヤフオクで落札した品の銀行振込に、部下を行かせる(業務とは無関係)。
●自分の汚れ物をクリーニング屋へ出しに行かせる。
●特定の部下に、毎日弁当を買いに行かせる。
●懇親会の飲食代支払いに、部下のクレジットカードを使わせる。
●業績に応じて社から個人に対して出る賞金が入った場合、その何割かを自分に支払うよう示唆する。
●自分の思い通りに仕事をしていないという理由で、即日解雇。

 安っぽい2時間ドラマでも書かなそうな内容だが、全て実際にこの目で見てきたことだ。理不尽だと分かってはいても、その場にいると「No」と言えない。突発的に起こる「逆上」を恐れて畏縮しているうちに、いつの間にか笑顔で従順な奴隷になっている。なぜか。
 この上司、気まぐれに「ホトケ」になるのだ。
 DV夫から逃げても逃げてもまた戻ってしまう妻がいる。暴力を受けているときは殺したいほど憎んでも、そのあと泣いて詫びられ優しくされると、通常の何倍もありがたく幸せに思え、つい許してしまうという悪循環だ。
 同僚たちの中には、これと同じ状況に陥っていると思える者がある。上司が時折見せる「ホトケ」の態度、大袈裟に褒めそやしたり感謝したりする言動に、過剰に喜びを感じている節が見える。恐ろしいことだ。

 さらに最悪な上司の行為は、故意に部下同士を反目させたことだ。
「○○君と○○君がお前をどうしてもクビにして欲しいと俺に懇願してきている。しかし、それを俺が止めてやっているんだぞ」
 一人一人個別に呼び出してそんなことを言う。そのため、わたしたちはこれまで、同僚として正常な関係を築けずにきてしまった。

 最後の出勤日であった昨日、わたしはこのような上司の悪事の実態とそれに対する自分の意見を、初めて同僚たちに話した。するとその夜、彼らはわたしの「送別会」を開いてくれた。全員参加の自主的な飲み会は<初めて>のことだ。
 その席で、上司が個別面談で言った嘘が明白になった。ショックで口をきけない者がいた。それまで敵視していた同僚に謝罪する者もいる。
「この部署、あの人さえいなければ、こんな和気あいあいとできたんですね」
 一人がつぶやいた。

 それでも会社は、この上司にペナルティを与えることはしない。わたしたち下っ端はいくらでも取り替え可能だが、上司である彼は取り替え不可能だと考えられているからだ。
 実際、そうかもしれない。
 人間的に欠陥があっても、仕事はする。それなりの業績は出している。彼がいない状況で、わたしたちだけで同じ売り上げを維持できるかと言われたら、胸を張って「ハイ」とは言えない。
 パワーハラスメントが横行する大きな理由のひとつが、この現実だ。

 それでもわたしは、諦めたくない。会社に絶望はしているが、だからといってこんな暴力を許すことはできない。人が人を尊重するという「自然なこと」を自然にできる環境を求めることを、阻む「何か」があるのなら、そいつをぶっ倒したい。
by etsu_okabe | 2005-11-24 00:16 | パワハラ